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瞑るおおかみ黒き鴨

9/4ソワレを観劇してきました。
物販に並ぶ長蛇の列、すすり泣く客席、という観客の熱気に気圧されて、前作を観劇していなかった私は少し疎外感を感じたりもしたんだけど、どうしても大阪公演に行くことができない私は東京で観ることができてよかった、想像ばかり膨らませて悶々とせずに済んで良かった、そう思った舞台でした。

以下遠慮なくネタバレしますし、書きたいように書いていますのでご注意ください。うろ覚えのところもありますし、熱いファンの方に怒られるかもしれないなとは思っています。

個人的に西南戦争あたりについて無知な自覚があったので、明治維新後の斎藤一の半生を描いた某小説を読んで予習してみたのですが(舞台とは全く関係ないものです)、登場人物たちの基本的な情報を覚えられたのは良かったものの、その小説での人物のイメージがつきすぎて舞台を見ながら戸惑う羽目になってしまい、失敗したなあと思いました。ええ、あの、佐川官兵衛と山川さきのあの辺りのことを言っています。確かに小説で官兵衛のことを知ってから配役を見たら、斎藤に比べて官兵衛若いな……とは思った。それ言い出したら大山巌とかみんなキリないんですけどね。だから観ているうちに、激動の時代の人物たちのエッセンスだけ抜き出して、それを若い役者中心に新たな物語として再構築しているのがこの舞台シリーズなのだと少しずつ理解していきました。私の思い描いていたものとは別物なのだと。だから豪傑なおっさんだったはずの官兵衛は、荒々しくも恋に不器用な青年になっていました。鈴木さん演じる官兵衛の悲壮なまでの一途さはひしひしとこちらに伝わってくるものでした。
個人的に注目していた大山巌は、下らない冗談ばかり言って周囲を閉口させるお調子者、しかし戦いではあくまで冷静に「無粋」と言われるまでに確実に勝利をものにしようとする、そんな底の見えないミステリアスな青年として描かれていて。龍馬に次いでいち早く世界に目を向けた彼がいたからこそ新政府は勝てたのだと西郷は言いますし、彼が切れ者であることも戦場での冷静な立ち居振る舞いから分かります。しかし大山は決して冷徹ではないとも思ったのは、かつて仲間だった村田新八を執拗に銃で撃ち殺した後(はっきり言って冷静すぎて不気味だった)、新八の被っていた帽子を取って、自らの頭に被せて退場していったからです。それはかつての仲間の意志を受け継ぐと彼が示しているようにも感じられて、その両極端な面がますます大山のミステリアスさを際立たせていたように思います。かつての仲間たちに大山がどんな思いを抱いて戦っていたのか、もう一度観劇して考えてみたいけれど、それはもう私にはできないのが残念です。
しかしいつも飄々としている大山が唯一声を荒げたシーンがありました。新政府軍による若松城の開城に槍を突き立てて抗うさきを大山が諭すシーンです。「あなたたちに渡す城などありません」と鬼気迫る表情で叫ぶさきを大山は殴り、胸ぐらを掴んで怒鳴ります。この台詞がうろ覚えなのが悔しいんですが、こんなことを言っていたように思います。自己満足の抵抗などやめろ、必死に戦って命を落とした者たちの思いを無駄にする気か、これ以上無駄な殺生を生まないための戦いなのだ、と。その言葉を聞いて泣き崩れるさきを横目で見ながら、大山は「女性を殴らなくてはならなかった私の気持ちも考えてほしい」と自嘲しながら口にします。ここも正直(うわ…この人女子を殴った……)と最初は思ったんですが、よくよく考えると、大山が本音を口にしたのはこのシーンだけだったように思います。その相手が後々自分の妻となるさき(捨松)だったというのが感慨深いです。留学をしてレディーファーストについても学んでいたであろう彼が、断腸の思いであえて女性を殴ってでも止めなければならないと思った、そんな悲愴さがこのシーンの山谷さん演じるさきから伝わってきました。また、大山はこの強烈な出会いからさきを「会津に咲く一輪の花」と呼ぶほどに恋に落ちるなんて、ある意味肝の据わった人だなあ……と。笑
終盤、官兵衛は大山に、ずっと黙っていたさきの近況について教え、「あいつが好きなら生きろ」と声をかけます。大山はさきが生きていることを知り「しあわせだーー!!」と叫ぶんですけど、ここの佐伯さん演じる大山の表情をちゃんと確認したいなあと今になって思います。さきという存在のバトンを渡された大山は生き残り、渡した官兵衛は新八との戦いで死んでいく。その官兵衛を殺した新八にトドメを刺すのが大山巌。巡り巡ってますね。
冒頭、OPで留学から帰国したであろう洋装のさきが、大山と笑顔で会釈しあうシーンが印象的でした。あの壮絶な出会いだった二人がどう距離を縮めて夫婦になっていくのか知りたいです。

アフタートークのゲストは前作に出ていた安西さん。安西さんはテニミュ以来お姿を見たんですけど、全然変わってないなと思いました。笑 クールなイメージだった青木さんはゲラゲラ楽しそうに笑うし、飄々とした荒木さんはマイペースさを発揮するし、なんとも言えない独特な時間でした。
最後に、斎藤一として劇場を見回す青木さんのぎょろりとした大きな目が忘れられそうにないことを記しておきます。銀河劇場、床の木の板にあたたかみを感じる、素敵な劇場でした。

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